官能小説とは何か、自分にとっての官能とは何か/『官能小説の奥義』永田守弘著(角川ソフィア文庫)

 永田守弘(1933~2020)は、日本初の官能小説評論家として、様々な批評やエッセイを書いた。『官能小説用語表現辞典』『日本性愛小説大全』など編集もしている。

本書は、集英社新書(2007)を文庫化したものである。

 性器性交描写の表現は様々な工夫が凝らされる。男と女が性交をした。では人間は満足ができないからだ。性器は魚や植物、時には母なる大地にたとえ表現をされる。性交は、恋愛系、癒し系、嬲り系、凌辱系、絶倫系と5種に分け様々な例を紹介してくれる。あの時味わえなかった気持ち。あの頃の思い出。あんなことやそんなことを想像しながら、ジャンルごとに紹介される例文を読んでいく。読み進めていくうちに、あれ? なんだ? 想像することで、自分の中に少しずつ発見がでてくる。

 フェチは大きく2種類に分かれる。「男性読者のフェチを、まず大きく分けると、おっぱい派とお尻派になるだろう。」その通りだろう。「乳房フェチがロマンチストなら、尻フェチはリアリストである。尻を撫でさする体位では、肛門や女性器が丸見えになるから、ただちに性行為へ移りやすい。」これはびっくり。大胆な指摘。乳房派は巨乳か美乳。お尻派は大尻か小尻に分かれる。これにも各派の一文の紹介がある。自分が好きじゃなかったこと、知らなかった魅力を教えてくれる。

 官能小説を読むだけでは、映像が発達した現代においてそれだけで満足をするのはなかなか難しいかもしれない。また、物足りなさを感じるかもしれない。しかし、映像ができない緻密な描写は読者の想像を掻き立る。また、作者のフェチの熱量が、読者の眠っていたフェチを起こしてくれる。そこから映像に戻ってもいいし、その作者に熱中するのでもいい。官能小説には無限の可能性がある。そんな風にこの本は思わせてくれる。官能小説を読んだことがないぼくも、紹介されているものを何作か読んでみようと思った。

 自分の中の官能を見つめ直す。充実させる。そんなきっかけを与えてくれる。